「いとをかし」の意味って?『枕草子』原文と現代語訳で深掘り解説!
古文に触れるとよく目にする「いとをかし」という言葉。学生時代に習った記憶はあるけれど、「結局どういう意味だっけ?」と、うろ覚えの方もいるかもしれませんね。特に、清少納言が綴った平安時代の名著『枕草子』には、この「いとをかし」という表現が何度も登場します。しかし、現代語の「おかしい」とは全く違う意味合いで使われているため、誤解されやすい言葉でもあります。
この記事では、「いとをかし」が持つ本来の意味を、『枕草子』の原文を交えながら、分かりやすい現代語訳で徹底的に解説していきます。「いとをかし」がどんな場面で使われていたのかを知れば、平安時代の美意識や感性がきっと身近に感じられるはず。古典の世界に一歩踏み込んで、この美しい言葉の奥深さを一緒に探求してみましょう!
「いとをかし」の基本的な意味を紐解く
「いとをかし」は、大きく分けて二つの単語から成り立っています。
- 「いと」: 副詞で、現代語の「とても、非常に、たいそう」という意味です。強調の役割を果たします。
- 「をかし」: 形容詞で、これが現代語の「おかしい(funny)」とは異なる、多様な意味を持つ言葉です。
この「をかし」という言葉が持つ意味は、主に以下のようなものです。
- 趣がある、風情がある
- 美しい、かわいい
- 興味深い、面白い
- 素晴らしい、優れている
- かわいらしい、愛らしい
つまり、「いとをかし」は「とても趣がある、非常に美しい、たいそう興味深い、実に素晴らしい」といった、ポジティブで感嘆の気持ちを表す言葉なのです。現代語の「おかしい」が「滑稽だ」「変だ」といった意味で使われるのに対し、「をかし」は「美的感覚に訴えかける魅力」を表現する言葉として使われていました。
『枕草子』に見る「いとをかし」の世界
清少納言の『枕草子』は、「をかし」の文学とも言われるほど、この言葉が頻繁に登場します。彼女は、日々の何気ない光景の中に「をかし」を見出し、その魅力を余すことなく表現しました。
いくつか具体的な例を見てみましょう。
1. 『枕草子』冒頭の一節から
春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少しあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。
(現代語訳)春は夜明けが素晴らしい。だんだんと白んでいく山際が、少し明るくなって、紫がかった雲が細くたなびいている様子は。
この後に続く言葉こそが、有名な「いとをかし」です。
いとをかし。
(現代語訳)実に趣がある。
ここでは、夜明けの山の景色、色づく雲の様子を「とても趣がある」と表現しています。単に美しいだけでなく、その情景がもたらす風情や心惹かれる感覚を含んで「をかし」を使っていることがわかります。
2. 「はるはあけぼの」後の「いとをかし」
夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもいとをかし。雨など降るもをかし。
(現代語訳)夏は夜が良い。月が出ている頃は言うまでもなく素晴らしいけれど、闇夜でも、蛍がたくさん飛び交っているのは。また、ただ一つ二つなどが、ぼんやりと光って飛んでいくのも実に趣がある(または、実に愛らしい/興味深い)。雨などが降るのも趣がある。
ここでは、蛍が飛び交う様子や、雨が降る情景にも「をかし」を見出しています。一斉に飛び交う蛍の美しさだけでなく、一つ二つとぼんやり光る蛍の「かわいらしさ」や、雨が降る夜の「静かな趣」など、多様な感情が込められていることがわかります。
3. その他、様々な「をかし」の表現
『枕草子』の中では、他にも様々な場面で「をかし」が使われています。
-
「雪のいと高う降りたるを、例ならず御格子上げて、笑はせ給ふ」
- (現代語訳)雪がとても高く降っているのを、いつになく御格子を上げて、笑っていらっしゃる(帝の姿が)たいそう美しい(または、かわいらしい)。
- この場合は、帝の表情や様子が「愛らしい、美しい」と感じられる「をかし」です。
-
「小さきは、皆かわいらし。いと小さきもの、いとをかし」
- (現代語訳)小さいものは、全てがかわいらしい。とても小さいもの(例えば、子猫や子犬など)は、実に可愛らしくて趣がある。
- ここでは、「かわいらしい」という感情を強く込めて「をかし」を使っています。
これらの例から、「いとをかし」が、清少納言の鋭い観察眼と豊かな感性を通して、身の回りの様々な事象から感じ取った「心が惹かれる」「魅力がある」というポジティブな感情を表現していたことがよく分かります。
「をかし」と「あはれ」の違い
古文でよく対比されるのが、「をかし」と「あはれ」という言葉です。これらも現代語とは意味が異なります。
- をかし: 知的・感覚的な美しさや面白さ、趣、明るい感動。対象の特質を客観的に捉え、その良さを発見するような感覚。
- あはれ: しみじみとした深い感動や趣、悲哀、共感。対象に深く心を動かされ、感動が内面から湧き上がってくるような感覚。
例えば、「美しい景色を見て心が明るく弾む」のが「をかし」だとすると、「夕焼けを見て、言葉にならないほどの感動や寂しさを覚える」のが「あはれ」に近いと言えるでしょう。清少納言は「をかし」を多用し、紫式部の『源氏物語』は「あはれ」を基調としていると言われることがあります。
まとめ:「いとをかし」は平安時代のポジティブな感嘆詞!
「いとをかし」は、現代語の「おかしい」とは全く異なり、**「非常に趣がある」「とても美しい」「実に興味深い」「たいそう素晴らしい」**といった、ポジティブな感動や賛美の気持ちを表す言葉です。
清少納言は『枕草子』の中で、日常の何気ない風景や出来事、人々の様子の中に、この「をかし」を見出し、その魅力を生き生きと描写しました。彼女の感性を通して、「いとをかし」という言葉は、平安時代の洗練された美的感覚や、あらゆる事象から喜びや感動を見出す豊かな心を私たちに伝えてくれます。
この言葉の本当の意味を知ることで、『枕草子』はもちろん、他の古典作品を読む際にも、より深く作者の意図や当時の人々の感情を理解できるようになるでしょう。ぜひ、日常生活の中であなたなりの「いとをかし」を見つけて、言葉にしてみるのも楽しいかもしれませんね。